フェスティバルディレクター 平田オリザから

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フェスティバルディレクター 平田オリザから

豊岡演劇祭2021中止後の対応について(2021年8月27日)

 豊岡演劇祭2021の中止を決定してから一週間が経ちました。
国内外から励ましと、「来年は行くよ」というお言葉をちょうだいし、感謝の気持ちでいっぱいです。

 22日よりチケット払い戻しの手続きも始まりました。せっかくチケットを買ってくださったお客様には本当に申し訳なく思いますが、電話などでも激励のメッセージを多くいただき恐縮しています。皆様のご協力に感謝いたします。

 参加予定だった団体へのご連絡、事後対応の話し合いもほぼ終わりました。こちらも、当方の事情で開催中止を決定したにもかかわらず、皆さん、ご理解をいただきました。ありがとうございました。
 仕事がキャンセルとなってしまったスタッフについても、できる限りの保障を行って、来年度につなげていきたいと考えています。

 豊岡演劇祭2021は全演目を中止としましたが、そのあと、各団体が独自の判断を行い(それらも苦渋の判断を伴いますが)上演延期、オンライン配信、規模を縮小しての上演など様々な形が生まれつつあります。
一定程度、情報がまとまったところで、各団体についての今後の方針をご報告したいと考えています。
まだ先行きは何も見えませんが、私としては豊岡演劇祭2022は、どのような形ででも開催できればと願っています。

豊岡演劇祭2021 フェスティバルディレクター 平田オリザ

豊岡演劇祭2021の中止について(2021年8月19日)

 既報の通り、兵庫県に緊急事態宣言が発出されたことから、豊岡演劇祭2021は中止のやむなきに至りました。
オンライン配信などを含め個別の演目の上演については、おってご報告いたします。

 観劇を予定していたお客様、ここまで準備をしてきた参加団体および関係者の皆様には、本当に申し訳なく思います。
以下、長文になりますが、よろしかったらご一読ください。


 中止を決断するにあたって、私たち演劇祭実行委員会は主に以下の四点を考慮し、連日、各部署で会議、討議を繰り返してきました。

1.この一年半、劇場の客席からクラスターは発生しておらず、大きな発声などを伴わない演劇や音楽、映画の「鑑賞」については、劇場・映画館はきわめて安全な場であることが政府、専門家会議からも表明されている。

2.一方で政府の感染予防対策は、人流そのものの抑止にシフトしており、全国知事会からも府県をまたいでの移動の自粛などが強く要請されている。
 また、そもそも豊岡演劇祭は、都市で開催されるフェスティバルと異なり、観光やまちづくりと深くリンクし、多くの人々を県外から呼び込むことを大きな目的の一つとして開催の準備を進めてきた。

3. 但馬地域は比較的感染者が少なく、であるからこそ外からの人流には一層の配慮をしなければならない。また病床数も限られることから、医療機関に過度の負担をかけることにも留意しなければならない。
 さらに、フェスティバル参加者の健康被害を防ぐことも実行委員会の重要な責務である。

4.表現の場は、主に以下の二つの理由で、できる限り開かれているべきである。
a.表現の自由は可能なかぎり保証されるべきであり、軽々に表現の場を閉ざすことは、未来に禍根を残す。
b.特に若い表現者にとっては、一回一回の上演がステップアップの場であり、豊岡演劇祭への参加の道を閉ざすことが、芸術家としての将来に大きな影響を与える可能性がある。

 上記のような様々な要素を検討しても、やはり、2および3の観点から、演劇祭自体は中止せざるを得ないだろうと私たちは判断しました。

 お客様の混乱を避けるために、まず、すべての演目をいったん中止としてチケットの払い戻しに応じます。
公式プログラムに参加予定だった団体、アーティストには、これまでかかった費用を補償し、できる限り今後の活動に支障を来さないような様々な支援を検討していきます。

 また、演劇祭の灯をたやさないためにも、何らかの形で、但馬地域限定で上演できる演目やオンライン上演も模索していくこととなりました。

 さらに、フリンジに関しては、そもそもその主旨から考えても、場所や状況が許せば、「上演をしたい」という願いを拒否する権利は誰にもありません。演じたい、踊りたいという意思を、誰も否定することはできません。感染予防対策をしっかりと行っていただいた上で、状況を注視しながら、これからいくつかの団体が、まさに自主的に公演を行うことになるかもしれません。時期をずらしての上演を検討する団体もあるかと思います。その場合には演劇祭実行委員会としても、できる限りの間接的な支援を行っていきたいと思います。

 この週末には東京のサントリーホールで、私が作・演出を担当したオペラ『二人静』が上演されます。数十名の楽団員がパリから来日します。いったい何を上演してよく、何を上演してはいけないのか。「人流の抑制」という概念は理解していても、一演出家としては忸怩たる思いがあります。

 また、多くの演劇人の発表の機会が失われてしまったことについては、フェスティバルディレクターとして慚愧の念に堪えません。

 この一年半、私自身、多くの上演中止を経験してきました。
もういい加減にしてくれと心底思います。誰に向かってでもなく。

 世界が日常を取り戻す日は、いつになるでしょう。
 劇場が非日常を取り戻す日は、いつになるでしょう。

 それでも私たちは、芸術家の強い想像力を持って、前を向いて進みたいと思います。
どうか、今後とも豊岡演劇祭にご理解とご協力をお願いいたします。

豊岡演劇祭2021 フェスティバルディレクター  平田オリザ